夜について

夜学バー
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 夜学(やがく)とは夜に学ぶと書きます。

 小さいころ、夜は「怖い」ものでした。また、夜に出歩くのは「特別」なことでした。
 子どもは、夜のことを何も知りません。
 夜は暗闇が支配する、未知のかたまり。
 楽しい「夜更かし」や「夜遊び」によって、少しずつ夜のことを知っていくのは、じつに刺激的でした。
「蝉の幼虫を捕りに行く」「星を見る宿題が出た」など口実をつくっては、夜に飛びだしていました。
 たのしかったです。
 あれこそ「学び」、と思います。

 二十歳のとき、初めて「バー」に足を踏みいれたときの、あのドキドキは忘れられません。
 ドアの重みは今もこの手に残っているかのようです。

 単純に、知らないことを知っていくとか、わからなかったことがわかるようになるとか、そういうことは、とても楽しいものです。
 夜の酒場には、いろんな人がきます。いろんな話がきけます。いろんなことが起こります。それはたいていは未知のものです。


「夜学バー」と言うくらいですから、学校の勉強の得意な人や、学校の勉強をやり直したい人も、たくさんくると思います。
 また、漫画や詩や文章を読んだりかいたり、絵を描いたり観たり、音楽を聴いたり作ったり演奏したり、いわゆる“文化的なこと”を好む人たちも、いっぱいくるでしょう。
 鉄道が好きな人、建築に興味がある人、自然をこよなく愛する人、呪術にはまっている人、何かのコレクター、毎日何時間も散歩する人、おしゃれが得意な人、打率の計算がはやい人、文房具にくわしい人、食べものマニア、ギャンブラー、ある宗教の熱心な信者、政治家をめざす人など、本当にいろんな人がきっときます。
 その人たちは、年齢もセクシャリティも、職業も性格も見た目も、身分も資産も年収も何もかもそれぞれ違います。
 夜間学校のように、多種多様な人たちが同じ場を共有することになります。

 そういえば、学校とか学びの場というのはそもそも、いろんな人がいるもの、かもしれません。
 いろんな人が、同じ場にいて、べつにだいじょうぶな空間。
 それをめざして、「夜学」の名をつけました。

 以上は夜学バーがホームページを開いた当時に掲載していたもので、2017年3月ごろの執筆。2021年6月の改装で削除したのですが、復活させました。(2023年7月)
 このお店について書いた最初の文章と記憶しています。時が経っていろいろなことがあり、変わり、変えてきましたが、この初心に変更ありません。

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