中立/夜学バーの人員(star)

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 中立(なかだち)といいます。カウンターの中に立つ人で、中立です。名前だけでも覚えてやってください。
 ふだんは編集者として出版業を営む傍らで夜学バーに立っています。
「編集者とバーに何の関係が? ははん、さては副業とか趣味で立ってる系のやつですね。しゃらくせえ」と思われる方もいるかもしれません。
 実はそうではありません。夜学バーに立つということは編集のど本流とわたしは思っています。しゃらくさくない。

 編集者の仕事は、すぐれた「著者」を見つけ、それをふさわしい「読者」へと橋渡しをすることです。
 わたしはこの「著者」を「お店」に、「読者」を「お客」に置き換えても成立するのではないかと思うのです。
 編集という営みについて解説した『新エディターシップ』(外山滋比古、2009、p.83)という本に、こんな一節があります(最低2回、読みましょう)。

ものごとの発見には、これまで考えられたことのないようなもの同士の組み合わせによることが多い。いいかえると、偏り固定している「場」から離脱して新しい自由な統合を許す「場」に立つことができたとき未踏の分野が開けるのである。この組み合わせも実はエディターシップによってある程度自由を増大することができる。

 名文……。と同時になんだかこのホームページに書かれている夜学バーの考えかたと似ているような気がしませんか(ちなみに本書、すでに絶版。がんばれ、みすず書房……!)。
 わたしは夜学バー初来店の2年ほど前から、このホームページにある文章の数々に感銘を受けました。いつか行ってみたいなと思いつつも、踏み出せない日々が続いていました。
 転機になったのは、とある作家さんの受賞パーティーに招待していただいた夜のことでした。パーティーはとても華やかな空間で、その高揚感に浮かされたまま、その帰りの深夜、えいやと夜学バーの扉を開けました。
 それから何度か訪れるたびに新たな発見があり、ホームページに書かれていることが「文章だけの理念」ではなく、実践として積み上がっている場だと確信しました。そして「夜学バーはもっと多くの人に知られるべき場所だ。 早くなんとかしないと……! 」という使命感に目覚めました。勝手に。申し訳ない。これもへんしゅうしゃのサガです……。

 で、その後縁あって、晴れて夜学バーという場をつくるお手伝いをすることになりました。
 とはいえ、ここをほんとうの学びの場とするためには、もちろん私一人では成り立ちません。夜学バーに来てくださる「ふさわしいみなさん」へと橋渡しをすることがわたしの務めですから。

 少し背伸びをしてしまった夜も、なんだかもやもやを抱えた一日の終わりでも。その一日をいちおうでも「良い夜だった」と終わらせるためには、夜学バーはじつにすぐれた場所です。
 上野の喧騒から一歩離れて、夜の静けさの中で言葉や場を共有するとき、未踏の分野が開ける偶機がここにはあります。うまく言葉にならない夜は、編集者ならではのお手伝いをできるかもしれません。
 わたしのように気になっているけれど、なかなか行きづらいと思っているみなさまも含め、ご一緒できるのを心待ちにしています。なんか本とか引用しちゃって小難しいことを書きましたが、わたくし、わりときさくな人間です。たいてい冗談ばかり言っています。明るい人だねってよく言われます。本当です。どうぞご安心してお越しください。

 そうそう、ここまでの文章をお読みいただいたあなた。実は編集するということはあなたのような人も自然に兼ね備えているものでもあります。というのも……。紙幅が限られていますので、くわしくは夜学バーで。
(2026/2/18)

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《店主より》
 なるほど中立氏は、編集者として夜学バーというすぐれた「著者」を発見し、それをふさわしい「読者」へと橋渡しするためにこのお店に立ってくれている、という側面があるわけですね。たぶん。夜学バーがあまりにも(すばらしさのわりに)売れていないから、「これはなんとか売らなければならない、ふさわしい読者に見つけてもらわなければならない」と奮起してくれたようです。
《夜の静けさの中で言葉や場を共有するとき、未踏の分野が開ける偶機がここにはあります》この一節が、夜学バーというお店のほとんどすべてを言い表していると店主たる僕は思います。夜学バーの提供する最も重要な商品は「偶機」なのです!
 って、偶機って何? 調べると麻雀マンガくらいしか出てこないのですが。造語? まぁでも意味はわかります。「偶然の機会」ってことですよね。僕の言葉でいえば「奇跡」。夜学バーは「奇跡の起こる確率」をできるだけ上げようというのが店是(こんな言葉も実はない)で、それが《「文章だけの理念」ではなく、実践として積み上がっている場》であると信じております。そういうあり方に中立氏は惚れ込んでくれたということで、実にありがたく頼もしい。
 じっさい彼の情熱はすさまじく、「夜学バーおよびジャッキーさんを売るために会社辞めます!」と言って本当に退職、新たな会社を立ち上げてしまった。敏腕編集者として莫大な年収を得ていたのをすべてフイにして冒険の海へ。狂ってる! これ、褒め言葉ね。既知から未知へ。あらゆる未知との自由な統合を許す、「未踏の分野」へ。
 彼が初めて夜学バーに来たときの描写に「踏み出す」「扉を開ける」というフレーズが出てきます。その時にすべては始まってしまったのです。
(2026/3/4)

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