奨学制度等について
《独自の奨学制度》
上記「詳細説明」では、夜学バーが決して「高い」お店ではないとアピールしました。しかし、それでも「厳しい」と感じる人は多いはずです。
夜学バーは、「お金がないけど、学びたい」という人のため、独自の奨学制度を各種用意しています。
貧乏な人、若い人は、「高い。行けない」でサイトを閉じる前に、詳細をお読みいただけたら幸いです。
◎「奨学生」の定義……身分、収入、資産などの事情により経済的に豊かでないと認められ、「学び」に対して真摯かつ誠実に取り組む姿勢のある者。詳しくは店頭でおたずねください。
- ▼ 木戸銭減免制度
- ▼ ごちそうシステム
- ▼ ミッションボトルキープ
●木戸銭を一部または全額免除
奨学生と認められた方は、事由に応じて木戸銭が一部または全額免除となります。
原則としては半額の500円となりますが、情況の甚だしさによってはその限りではありません。ご相談ください。高校生以下はほぼ全額免除が適用されます。
●減免されるからには……
奨学生は木戸銭が減免されますが、それはもちろん、一般の方々が「やや高い」正規の木戸銭を支払ってくださるおかげです。累進課税と似たようなシステムです。
そもそも「奨学金」も、「大人たちが若い人たちにお金を貸す」という仕組みでした。若い人たちは、将来お金に困らなくなったら、大人たちに借りていた奨学金を返します。これを「出世払い」と言います。
夜学バーにおいても、奨学生は「出世払い」を意識することはもちろん、「出世してないけど返せるだけ返す」ということにも務めていただけると幸いです
もちろん、「金で返す」ということは考えなくて結構です。「金以外のもので返す」ということが、金なんかすでに持っているおとなにとって、最もうれしいことなのです。
そのように「返す」ことに務めるのが、奨学生であるための条件のひとつです。
そのために、まずは、非奨学生の話し相手になってください。そして、彼らの知らないことや、忘れていること、考えたことのないこと、わかっていないことなどを、感じさせてあげてください。
それだけで十分ですし、それ以外のことも、やがてそこから見えてくると思います。
(次項の「ミッションボトルキープ」は、その実践例として考えた仕組みです。)
ところで、「何歳までが奨学生なんですか?」という質問には、うまく答えられません。10歳の奨学生がいてもいいし、35歳の奨学生がいてもいいです。80歳を過ぎた奨学生だって、定義上はありえます。
(参考文献:藤子不二雄『未来ドロボウ』、橋本治『貧乏は正しい!』)
●一日一杯の「ごちそう権」
木戸銭が減免になっても、ドリンクを注文するお金がない……という奨学生のために、「ごちそうシステム」があります。
正規の木戸銭を支払ったお客は、一日に一度限り、奨学生にドリンクをごちそうすることができます。そのお代は木戸銭に含まれるものとし、追加料金はどこにも発生しません。
奨学生は、一日に一度限り、一般のお客からドリンクをごちそうしてもらえます。もちろんお代はいただきません。
●ごちそうシステムの意義
飲食店において「注文をする」というのは、「その場にいる権利を獲得する」のとほぼ同じことです。
バーならば、カウンターの上にドリンクがある、というのは、その人がその場にいる証であり、そこにいてもよい、という許しをくれるものでもあります。
お金がないからと、何も頼まず、申し訳なさそうに「水を……」とだけ言って、最後に木戸銭(500円)だけ払って帰る、というのは、本人としても、見ている側としても、気持ちのよくない光景です。
そこで、一般のお客が「わたしのごちそう権をあの子に」と言えば、奨学生はドリンクを注文することができます。
ポイントは、「わたしのごちそう権をあの子に」という意味のことばを言ってもらうことです。正規の木戸銭を払うお客から、「いてもいい」という言質をとるわけです。
それで晴れて、奨学生はドリンク代を払わずに、そこにいることができるわけです。
ごちそうシステムは、「ここにいてもいい」という証拠を担保するもの、というわけです。
当たり前ですが、自分のお金でドリンクを注文することもできます。本来はこっちが当たり前です。
その場に奨学生しかいない場合、あるいはその場にいる一般のお客がみんなごちそう権を使い切っている場合は、基本的には自分で注文することになります。
もちろん一般のお客は、無料のごちそう権を行使せず、自分のお金でごちそうすることもできます。これも本来の形です。だから、そういうこともあると思います。
でも、それをするのには、ちょっと勇気がいります。
「いいやつぶっちゃって」という声が、どこかから聞こえてくるような気がします。
「ありがた迷惑なんじゃないかな」「ほっといてもらいたいのかも」なんて考えたりもします。
人は「他の人を助けたり、他の人と仲良くすると、気持ちが良くなる」という性質を持っています。誰かのために何かをすると、うれしい気持ちになります。
それを知らない人はあんまりいないので、本当は実行もしたいのです。しかし、どこか二の足を踏んでしまうところが、あると思います。
だからこその、「ごちそうシステム」でもあります。
システムは、そういったいろいろの心配をすっ飛ばしてくれます。
ただ募金するより、ひきかえに赤い羽根をもらったほうが気が楽なのと似ているかもしれません。
誰かが誰かに、望む何かをしてあげるのは、当たり前のことだし、基本的にそれはいいことです。それをやりやすい雰囲気が少しでもできたらいいなと思って、このしくみは考えられました。
●一日一杯である理由
これをちゃんと説明すると長くなってしまうので、主だったところだけを書きます。
一般のお客が、一日一杯しか「ごちそう権」を持たないということは、最初から決まっていました。ここを無限にしてしまうと、お店がつぶれます。
でも、奨学生の「ごちそうしてもらう権」については、無制限、あるいは数杯までにしようかと初めは考えていました。
それを「一日一杯」にしたのは、ごちそうシステムの本質が上記のとおり、「ここにいてもいい」という証拠を担保するもの、であるからです。
ごちそうシステムは、水分や糖分、カフェインやアルコールを摂取するためにあるのではなく、「その場にいる」ためにあるのだな、と気づいて、じゃあ一日一杯にしなくてはいけない、と思いました。
それらは別々の欲求であり、夜学バーがお店としてサポートしたいのは、「この場にいたい」という気持ちのほうだからです。
水分や糖分、カフェインやアルコールを摂取したいと思ったら、自分でお金を出すか、優しい人からごちそうになればいい。たぶんそのほうが健全です。ちなみに夜学バーではお水は無料、場合によっては牛丼屋のようにテーブルの上に水差しが置いてあったりするので、いつでも水分は取れます。
一杯目は、システムの範囲で「ごちそう」してもらえます。二杯目以降は、システムとは関係なく、その場にいる人との関係の中で、ごちそうしてもらえたり、もらえなかったりする。そのほうがきっと楽しいし、何かが育まれていくような予感もします。
夜学バーには、年齢も経済状況も、まったく違う人たちが集います。みんな「100円の重み」がそれぞれ違います。そのへんがうまいこと、なんとなく調整されて、みんながたのしくいられる場になることを祈り、またそのために精進いたします。
(参考文献:小沢健二『うさぎ!』)
●ありあまる「若さ」や「暇」を対価として飲む
ややこしい仕組みですが、流れは以下。
【1】一般のお客が、ボトルを買う。(通常のボトルキープとは異なる価格。後述します)
【2】買った人が、「ミッション」を設定する。
【3】奨学生がミッションを達成した(あるいはその約束をした)場合、ミッションボトルから安価(0円~300円程度を想定。原価に応じる)で飲むことができる。
【ミッション例】「美術館や博物館などに行ってレポートを作成せよ」「藤子不二雄A先生の『少年時代』を読んで、感想を述べよ」「何か一曲、楽器を使った演奏を聴かせよ」「仕事で大学生向けのアンケートを採っているので、回答せよ」「自転車で100キロ以上走ってこい」「感謝の言葉を一筆書け」(等々、自由に設定可能)
ややこしや……ご理解いただけますでしょうか。
一般のお客の側からすると、「若い人や暇な人のありあまるエネルギーや時間や自由さや柔軟さや厚顔無恥さなどを利用して、何か自分にとって利益になるようなことをさせ、その代わりにボトルを飲む権利を与える」です。
奨学生からすると、「自分のありあまるエネルギーや時間や自由さや柔軟さや厚顔無恥さなどを利用して、誰か望むことを達成し、その代わりにボトルを飲む権利を得る」です。
●料金設定……負担の割合を選択する
しかし、よっぽどお金に余裕のある人か、気前のいい人でなければボトル代を全額負担するのは難しいと思われます。
基本的には奨学生からもお金を出してもらいましょう。
というわけで、ボトルを買ってくれる人は、自分の負担する割合を以下のような形で選択できます。
それに応じて、奨学生は無料、あるいは100円~300円程度の安価で、ボトルを飲むことができます。(要ミッション達成)
【前提】
あるウィスキーを想定し、通常のボトルの値段をかりに5000円とします。
このボトルから、20杯のドリンクが作れるとしましょう。
ミッションボトルを買う人は、以下のA~Dの4パターンから、負担額を選択できます。
【A 奨学生に300円払ってもらう場合】
・買う人が払う料金……1500円
・奨学生が払う料金……300円×20杯=6000円
【B 奨学生に200円払ってもらう場合】
・買う人が払う料金……2500円
・奨学生が払う料金……200円×20杯=4000円
【C 奨学生に100円払ってもらう場合】
・買う人が払う料金……4500円
・奨学生が払う料金……100円×20杯=2000円
【D 奨学生に1円も払わせない場合】
・買う人が払う料金……8000円
・奨学生が払う料金……0円×20杯=0円
●このように設定した理由
……考えたすえの設定です。
通常5000円のボトル(つまり原価は1500円~2000円程度)に8000円を要求する「D」は、とても高いように見えます。しかし、通常のボトルキープは、来店ごとに1000円の木戸銭をいただくから成り立つわけですが、奨学生の場合はそれが500円ですから、どうしても高くなってしまいます。
ただ考えようによっては、8000円で20杯飲み放題にさせるわけですから、一杯あたり400円です。厳密に、700mlのボトルからシングル(30ml)23杯とるとすれば、348円。一杯につき348円でお酒をごちそうできるわけですから、安いと言えば安い、という考え方もあります。
また、「ミッション」が難しければ死に在庫になることもありえますし、逆に「鼻をさわれ」などの簡単すぎる「ミッション」を設定されると、ただのふるまい酒と同じことになってしまい、システムがうまく機能しません。タダで飲ませるからには、それなりの覚悟をしていただきますよ、ということでもあります。
そのほかいろいろ勘考し、このあたりがぎりぎりと判断しました。
「C」は500円しか安くなりませんが、上記の事情を踏まえると、ちょうどいい設定と思っています。
「A」「B」あたりが、気軽に実践できると思います。「A」の1500円といえばほぼ原価くらいですから、お店のほうとしてはさっきと逆の意味でギリギリです。でも一杯につき300円払ってくれるということで、少しずつ償却できていくはずですね。これなら「ミッション」が簡単であっても、さほど問題はなさそうです。(もちろん、ミッションらしくないミッションは、こちらで拒否させていただくこともあります。)
●つまり……